ももか/（30）

甘やかし五感飼育

部屋に入った瞬間から、
彼は落ち着かへん様子やった。

視線は泳いで、
言いたいことを飲み込むたびに──
喉が小さく動く。

「ん、どうしたん？」

そう問いかけても、
首を横に振るだけ。

……でも、手の甲に指先をすべらせたら。
震えが、欲を告げてきた。

恥ずかしそうに俯いたまま。
やっとこぼれた声は、震えていて。

「踏みつけられたい」
「支配されたい」
「お尻で圧迫されたい」
「香りで満たされたい」

普段なら言わんはずの願望ばかり。

「ふふ……かわいいねぇ…♡」

そう微笑んで抱きしめた瞬間、
彼の逃げ場は、もうどこにもなかった。

ゆっくり腰を落として、
顔を覆っていく。

「ほら……ももちゃんのお尻で。
息、ぜんぶ支配されたやろ？」

鼻先にまとわりつく熱。
全身が、びくんと跳ねる。

「…ふふ、気持ちええなぁ？
……でもねぇ。イったらあかんよ？」

声は優しいのに、
もがくたびに密閉される。

甘やかしと窒息の狭間で──
彼は震え続けていた。

長い沈黙のあと。
小さく震えながら、腕を伸ばしてきた。

「……ぎゅーして、いい？」

そっと抱き寄せる。
子どもみたいに顔を埋めて、甘えてくる。

「よく頑張ったね」

囁いた瞬間、さらに強く。
まるで離れたくないと訴えるように。

支配のあとに訪れる、無防備な甘え。
その落差こそが、彼を飼いならす鍵。

震える身体を抱きしめながら──
「もう大丈夫やで」
耳元で、何度も繰り返した。