さき/（30）

言葉にならない空白。

いくら知識を詰め込んでも、
それが本当に自分のものになるのは、
ごく一部だけ。


日々の中で何度も考えたり、
誰かとのやりとりの中で
自然とにじみ出てくるようなものでなければ、
身についたとは言えないのかもしれない。


あるとき、心理学を専門に学んできた方と
話す機会があった。


優秀な大学で研究を重ね、
今ではそれを活かしたビジネスにも
取り組んでいるという。


どんな視点で物事を見ているんだろう。
会話の中で、どんなふうにこちらを
読み取ってくるのか。


そんな興味もあって、
少しわくわくしながら話し始めた。


けれど、なぜか会話が
うまく噛み合わなかった。


気づけば、私のほうが
リアクションを多くしたり、話題を探したり、


なんとなく場の空気を整える役にまわっていた。
終わるころには、ちょっと疲れてしまっていた。


知識や経験があっても、
それが自然ににじみ出るには、
時間や実践が必要なんだなと感じた。


人と関わるって、きっと“学び”だけでは
どうにもならない部分も多い。


うまく言葉にはできないけれど、
あの日、会話の中にふと感じた“空白”が、
今も心のどこかに残っている。