さき/（30）

夜に咲き誇るということ。

映画館を出た瞬間、
夜の風が頬を撫でた。　


肌寒いはずなのに、
心の奥にはまだ熱が残っている。



まるでスクリーンの中で燃えていたものが、
私の中にも火を灯したみたいに。




『ANORA アノーラ』


この映画は、
私の知っている世界の話だった。


夜の街で生きる女。


自由で、誇り高く、


でも、
ときに簡単に切り捨てられる存在。



彼女は強く見える。


けれど、
その強さの裏には、
誰にも見せない寂しさや痛みがある。



それもまた、
よく知っている感覚だった。

　　

彼女の人生に訪れた出会い。



それは、運命のようで、夢のようで、
一瞬で心をさらっていくような出来事。



けれど、この世界は残酷だ。
　
　

どんなに本気で愛しても、
どんなに心を尽くしても、



「ふさわしいかどうか」を
問われることがある。
　　


誰かが勝手に線を引いて、
「ここから先には来るな」と言う。

　

その言葉に、
胸を締めつけられることがある。

　

──私も、
何度もそういう瞬間を経験してきた。

　　

「過去があるから」
「今の仕事だから」
「そんな生き方をしているから」

　　

それだけで、

　　

どれだけ心を込めても、
どれだけ愛されても、　



その愛が「本物」と
認められないことがある。



そんな世界で、
それでも彼女は咲く。　　



誰に何を言われても、
誰にどう見られても、



自分のままで咲き誇る。



それが、
どんなに難しいことかを知っている。



私もまた、
そうやって生きてきたから。

　

誰かに許されなくてもいい。
誰かの「正しさ」におさまらなくてもいい。

　

私は私のまま、
この夜に咲く。



映画を観終わって、
いつもの街を歩く。



ネオンが滲んで、
ほんの少し、
あたたかく見えた。　

えちちSPA♡さき